救急医療に欠かせないコミュニケーションポータルへ
前橋赤十字病院
- 効果
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- 氏名に加えて所属部署や専門分野でも連絡先を検索
- 医師や看護師の在・不在、居場所を即座に確認
- 救急医療での活用、院内システムとの連携も視野に
1913年の開院から100年以上の歴史を持つ前橋赤十字病院は、2018年6月に前橋市朝倉町の新病院に移転した。ICT利活用に前向きな同病院はこの移転を機に、院内コミュニケーションに用いる電話端末をPHSからiPhoneに移行し、無線LANを介したIPフォンによる電話システムへ刷新した。その導入目的について、病院内IT系システムの導入・運用を担う情報システム課 課長の浅野太一氏は次のように語る。「旧病院は情報通信インフラが弱かったこともあり、職員の情報共有のための仕組みが十分でなかった。
職員がいち早く情報を共有できるコミュニケーションツールが欲しいというのは、幹部も含めた病院全体のニーズだった」
病院で働く職員は医師・看護師、事務系を含めて総数1,400人にも及ぶ。iPhoneを825台導入し、交代制で働く職員は共用することでほぼ全員がiPhoneで連絡を取り合う形態とした。
iPhone+Web電話帳で職員の連絡先を検索
このiPhoneを有効活用するために、もう1つ「必須のアイテム」(浅野氏)として導入したのが、職員の内線番号を管理・共有するWeb電話帳システムだ。
従来用いていたPHSでは電話帳データの配付ができなかったため、紙で電話帳を配付していた。「作るのに労力がかかるし、更新のタイムラグもある。紛失や盗み見のリスクも心配だった。連絡先情報を一元管理できて、迅速に検索できるシステムを早く入れる必要があった」のだ。
そこで複数の製品・サービスを検討。移転時に導入した新ナースコールシステムや、シスコシステムズの無線LANシステム、iPhoneと「最もマッチしていた」のが、Phone Appliが提供する「連絡とれるくん」だったという。浅野氏は「選択肢は多かったが、なかなか我々の要望とマッチするものがなく、連絡とれるくんは唯一のソリューションだった」と振り返る。
導入前の評価段階では情報システム課内だけでなく、現場部門にも試してもらった。「アプリケーションは第一印象がとても大事だが、連絡とれるくんはとっつきやすく、“職員もすぐに使えるようになるな”と感じた。ユーザーインターフェース的に使いやすい」のが選定の大きな決め手になった。
連絡とれるくんの展開は徐々に広げていく計画であり、まだ病院全体での運用はスタートしていないが、検索機能の使い勝手に関する評価は高い。「内線番号を探して連絡するツールは、いわばコミュニケーションの入り口。ここで戸惑ってしまうと業務が先に進まず、リズムが狂ってしまう。これをいかに効率的にスムーズに行うのかは病院全体の課題であり、連絡とれるくんはそれを解消してくれると期待している」と浅野氏は話す。
具体的な機能については、「グループ機能」の使いやすさを高く評価する。「グループの作成と登録が簡単で、検索も2タップくらいでできる」と同氏。病院内では多くのワーキンググループ(以下、WG)が活動しており、よく連絡を取り合うWGのメンバーをグルーピングしておけば、コミュニケーションの効率が上がると期待する。
医師・看護師の在・不在、居場所も即座に確認
加えて、前橋赤十字病院では連絡とれるくんのオプションサービスである「居場所わかるくん」も採用している。無線LANの電波によって位置情報を取得し、各職員の現在位置を把握する仕組みだ。連絡先の検索結果に、今いる病棟名やフロアが表示されるほか、地図上に現在位置を表示することも可能だ。
これも連絡とれるくんの選定に大きく影響したようだ。「このプレゼンス機能も必要だった。居場所はもちろん、院内にいるのかいないのかがすぐにわかるのがよい」と業務効率化に大きく貢献している。
ただし、浅野氏は病院ならではの課題もあると打ち明ける。例えば、「一般的な企業と違って、病院の職員は、居場所を“見る側”と“見られる側”に分かれてしまっている。見る側にとっては非常に便利なツールだが、見られる側、つまり医師のほうはプライバシー面での不安を感じている」という。
この課題は、業務時間内のみに利用を限定するなどのルール作りと機能の改善によって解決した。居場所わかるくんはWi-Fiの電波が届く範囲内でしか位置を測定できないため、業務が終わり病院の外に出れば居場所を把握されることはない。その仕組みを周知しつつ、業務時間内のみの利用を徹底するルールを策定。利用者ログの可視化機能を追加した。万一、不正に利用された場合の解決に役立つうえ、抑止力としても働く。
現場スタッフの意見も取り入れ、救急医療での活用も
浅野氏ら情報システム課では、こうした検索機能の使い方を工夫して、場所に囚われず、時間を有効活用できる働き方を実現しようとしている。
1つが、検索用のキーワードを充実させて、氏名だけでなく所属部署や診療科名から必要な相手を探せるようにする使い方だ。「医師なら専門分野や診療科を登録することで、名前がわからなくても探せる。所属部署ごとに分け、階層化して電話帳データを作り直したので、そうした“機能”でも検索できるようになった」。
また、現場の看護師の意見も取り入れて使い方を進化させようともしている。例えば、医師・看護師を緊急招集するドクターハリーへの応用がある。特定のアプリケーションを登録しておき、1タップで起動できるようにするiPhoneの機能「ショートカット」と連絡とれるくんを組み合わせて、緊急時に一発起動するというものだ。「現場と話すなかで出てきたアイデア。これなら新人でも早く確実に連絡ができる。使えば使うほど、我々が想定していない使い方が出てくるだろう。それを取り入れて、イレギュラー時においても安心して誰でも簡単に連絡できるよう工夫していきたい」と浅野氏は述べる。
こうした取り組みを続けながら、「将来的には、連絡とれるくんと居場所わかるくんを院内のスタンダードなツールとして周知徹底していきたい」と同氏。現在はiPhoneのみで使っているが、PCでも利用可能にする計画だ。「PCで最も使われているのが電子カルテだから、そのなかでも連絡とれるくんの連絡先画面を出せるようにしたりと、院内の情報システムとうまく連携してもっと使えるようにしていきたい」とも話し、院内コミュニケーションの基盤として活用範囲を広げていく考えだ。
前橋赤十字病院は災害医療に特化した3次救急医療機関でもあり、救急医療の目線でもICTへの期待は高い。そうした救急医療・災害医療の現場においても「連絡とれるくん」が様々な院内システムと連携して行ってほしいと浅野氏は期待する。