【専門家と語る】特別対談:多様性は分断を生む!?
気軽な「ありがとう」が架け橋となる
高い技術力と人間力をもってお客様に寄り添ったICTインフラトータルサービスを提供するユニアデックス株式会社。同社では多様な従業員それぞれがより働きがいを感じられるように、フィロソフィーの浸透や心理的安全性の向上を目指した取り組みに注力しています。
本対談では、ユニアデックス社長・田中建氏に、同社の取り組みのなかで「PHONE APPLI PEOPLE(以下、PA PEOPLE)」および「PHONE APPLI THANKS(以下、PA THANKS)」をどのように活用しているのかをお話しいただきました。また、多様性をもつ組織における感謝や称賛の効果をテーマに研究をされている正木郁太郎氏(東京女子大学准教授)には、専門家の視点から同社の取り組みによりどのような効果が期待できるのかについてご意見をうかがいました。(モデレーター:株式会社PHONE APPLI 執行役員CWO・藤田友佳子)
感謝と称賛を伝え合う組織は強くなる
田中氏 社長に就任してから、社員との対話を繰り返すなかで見えてきた状況を踏まえて、より働きがいを実感できる組織風土づくりに力を入れているところです。2024年度のはじめには、社長メッセージとして「仕事をたのしんでほしい」と発信し、そのなかで「感謝」と「称賛」を気軽に伝え合える、活気あふれる会社にしようと呼び掛けました。
正木氏 このメッセージを拝見して、私の研究にも関係する部分で、いくつかの重要なポイントが含まれているなと感じました。まず義務感よりも「自分から楽しむ」という前向きな感情を重視しているところ。また、会社全体としてのマネジメントだけでなく一人ひとりに目を向けているという点。さらには、個々人の能力が高くてもそれが独立しすぎているとチームとして機能しないことから、感謝と称賛を通じて「つながり合う」という点。そしてつながり合う第一歩として「ありがとう」を気軽に伝え合おうというふうに、メッセージの中で複数の大切な要素がつながっているなと感じます。
藤田(モデレーター) 正木先生、感謝と称賛を伝え合うことが組織の成長につながるという研究についてご紹介いただけますか。
正木氏 まず心理学においては、家族や友人というインフォーマルな人間関係のなかで感謝を伝えることがどう重要かという研究が多くあります。例えば、人が誰かに感謝を伝えた場合には「自分も他の人に何かしてあげないといけないな」という気持ちになり、逆に誰かから感謝された場合には「もう1回感謝されたいから次に何かやろう」という気持ちになる。それを繰り返していくことで、対人関係が生み出され維持されていく、ということが言われています。
そして最近では、仕事や契約といったある意味ドライな場面においても感謝や称賛は重要なのかという研究がされ始めています。そこでは、感謝や称賛が職場全体にチームワークの向上をもたらしたり、個々人についても、「仕事で貢献しよう」「前向きに新しいことに挑戦しよう」という気持ちを高めたりする効果があるというのが、国際的にも、そして私が研究しているなかでも着々と見えてきています。
「感謝をオープンに送り合う」ことのメリットとは?──ユニアデックス社の取り組みについて
田中氏 当社では2024年5月から、PA PEOPLE の機能であるPA THANKS を利用して、従業員同士でサンクスカードを送り合う取り組みを始めました。これまでの取り組みと異なるのは、送られたカードの内容を全社員が見られるということです。また、PA PEOPLE の「マイプロフィール」に自己紹介を登録して公開してもらい、社員同士の自己開示も進めています。こういった、オープンな場で感謝を送り合うことについては、どう思われますか。
正木氏 学術的な背景としては、感謝し合う関係や感謝の感情というのはまるでウイルスのように伝染していくと言われています。感謝を示すことによって、それを見た第三者に安心感が生まれて「自分も仲間に入れてほしい」と思い、新しく縁が生まれる効果があるというのが実験によって検証されていたりするんです。そのような感謝の広がりの効果を考えると、1対1のクローズドな場よりもオープンな場で感謝し合うほうがいいだろうと思います。
藤田 一方で、オープンな場で伝え合うことの注意点はありますか。
正木氏 集団の中で、同調圧力や疎外感といったいろいろなプレッシャーが発生する可能性はあります。だからこそ、オープンな場では気軽に伝え合うことを重視して、逆にここぞというときの重要なフィードバックは1対1のコミュニケーションでおこなうなど、伝え方を変えるというのも重要だと考えます。とはいえ、最初から「伝える方法を使い分けるスキルが必要」と構える必要はなく、気軽に伝え合っていくなかでだんだんと、内容に応じて相応しい伝え方についても身に付けていくというように、徐々にレベルアップしていこうと考えるのがよいと思います。
属性の違いを超えて感謝の輪を広げる意義
田中氏 当社では短期間のプロジェクトを多数動かす仕事のスタイルが多いのですが、そのプロジェクトメンバーには正社員のほか派遣社員等も含まれています。そのなかで感謝を伝え合えるのが正社員だけだと、チームの力が弱くなってしまうのではないかと懸念していました。そこで今回、正社員だけでなく派遣社員もPA THANKS の利用対象者としました。
正木氏 正社員と派遣社員という違いも一つの多様性(ダイバーシティ)ですよね。社会心理学の研究では、多様性はときにチームの分断を生むと言われており、複数の特徴が組み合わさると、チーム内の分断がいっそう深まっていくとも言われています。「正社員にはこれがあるが、派遣社員にはない」という違いが積み重なると、どんどん組織が分裂していき、チームワークが弱くなる。そのため、多様性がある「だけ」では問題も増しかねません。そこで、多様性ある組織を再びまとめあげるために、分断をつなぎ合わせる「糊」、あるいは架け渡す「橋」みたいなものも必要なのではないかと理論上も言われています。そういう意味で、属性の違いを超えて広がる感謝と称賛のコミュニケーションの輪には、「糊」や「橋」となって組織を一つにまとめるという効果があるのではないかと思います。
「やってくれて当たり前」では、組織は劣化してしまう──多様性と心理的安全性の確保に欠かせない感謝
田中氏 当社では近年、「多様性」と「心理的安全性」というキーワードを念頭に置いています。現在では社会的にも多様性の尊重が謳われていますが、そもそも当社は設立時から多様性の豊かな会社でした。というのも、当社は日本ユニシス株式会社(現・BIPROGY株式会社)から分社化しました。そして、他社との合併も経ている経緯から、異なる会社の習慣や文化、考え方を持ち、スキルもそれぞれ違うという、初めから多様性のある集団なんですね。また、当社は10年以上前からコーポレートメッセージ「同じ未来を想うことから。」を掲げております。お客様に寄り添い、同じ未来を見つめてサービスを提供したいという意味ですが、社員同士で同じ未来を想いたいという背景もあります。
田中氏 また、心理的安全性についてもずいぶん考えてきました。ただ、社内で真の意味の心理的安全性を常に維持するのは、なかなか困難であるとも感じています。
正木氏 実は私が感謝や称賛の研究を始めた背景に、「ダイバーシティ」や「心理的安全性」という言葉が壮大で難しく聞こえてしまい、大切そうだけど実際に何をしたらいいかわからない、という気持ちがあったんです。これはもしかしたら現在も多くの人が感じていることかもしれません。
これらは実際に難しい課題ではありますが、まずは「言わないとわからない」を前提として、前向きに感謝を伝え合うのが第一歩だと思っています。「やってくれて当たり前でしょ」と思って感謝しなくなると、どんどん組織として劣化してしまいます。これは例えば、夫婦関係などでも言えることですよね。自分としても、実行できているのかと顧みなければならないところですが......(笑)。
田中氏 よくわかります。上司と部下の間で心理的安全性を確保するために、まずは感謝を伝え合える関係性を築いていきたいと思うのですが、どのような姿勢や行動が重要なのでしょうか。
正木氏 まず、上司からも部下からも、双方が自己開示(自分の個人的な考えや気持ち、情報などを相手に知らせること)をするのが大事というのは、研究上も長らく言われていることです。
あとは、上司は部下を「管理する」というよりも、まさにこのコーポレートメッセージのとおり「同じ未来を想う」姿勢で、一緒に成長に向かって走っていくという気持ちでいることが大事です。
田中氏 まさに、私も日頃そう思っているところです。
正木氏 上司と部下というのは単に役割の違いで、目標に対するタスクが違うだけですからね。上下関係ではなくフラットに、自分の思っていること、まずは何に感謝しているのかという点を前向きにはっきり伝えていくのがベースになります。
田中氏 上司のほうがより積極的に感謝の気持ちを表して、コミュニケーションレベルを対等にするよう努力することが大事でしょうか?
正木氏 前提としては、上司だけでなく部下からも努力することが重要です。ただ、やはりどちらかが先に第一歩を踏み出さないといけないので、まずは上司のほうから踏み出してみることが必要なのかなと。ただ、上司ばかり踏み出し続けても空回りして悲しくなるので、部下のかたも応える必要がありますね。
避けられない分断の「架け橋」として、感謝・称賛のコミュニケーションが機能する
正木氏 人間の性質や集団の心理として、職場においても自然と派閥のようなものができていくことは避けられない面があります。組織に分断が生まれるのは仕方ないとしたうえで、じゃあそれをどうやってもう1度つなぎ合わせるのか、と考える必要があります。
田中氏 絶対に存在する共通点である「うちの会社に所属している」という帰属意識を感じられるだけで、仲間だと言えると思うんです。ただ、全員がそう感じられるかというと難しい。だからこそ、結びつきを高める手がかりのようなものを用意してあげないと組織としては成立しないのかなと。今回のサンクスカードの取り組みはそういう、仲間としての結びつきを高めるツールとしても活かせると思っているんですが、どうでしょう。
正木氏 活かせると思います。最近ちょうど私が研究上感じていることでもあるのですが、組織を点と線の集合だと考えて、とにかく人と人との絆、つながりを増やしていくことで会社としてのまとまりができるのではないかと。良くも悪くも「あの人の頼みだから受けてあげよう」「自分が困っているときには、仲が良いあの人に助けを求めてみよう」などというように、対人関係に基づいてつなぎ直していくというやり方です。感謝・称賛を伝えることは、そうした人と人のつながりの部分にプラスにはたらくと思います。
田中氏 会社が掲げるパーパスやミッションに社員全員が共感して、各部門やチーム、そして個人の目標にまで結び付けて考えることで企業力を高めましょうという「パーパス経営」の考え方もあります。それはそれとして、もっと地に足がついた部分で点と点が線で結ばれていくというところに力を入れると、自然とその塊が大きな力になっていく、という面があるのですね。
正木氏 あると思います。ただ、今お話をうかがっていて、なるほど、と私も思いました。パーパスやミッションによる一気通貫した組織マネジメントと、人と人のつながりによるまとまりを作っていくアプローチは、どちらかを選択できるというよりも、両方が大事ですね。というのも、人と人がつながってまとまったとしても、全体として何を目指しているのかがわからなければ、会社として成立しないので。
ユニアデックス社の「フィロソフィー」浸透の取り組み──PA THANKSが具体的な行動のイメージを育む場になる
田中氏 当社では、パーパスに近いものとして、「ユニアデックス・フィロソフィー」を掲げています。このうち「ビジョン」は2年前に大きく刷新しました。これからますますデジタル技術の進んだ社会で、お客様がほっとする幸せを創りたいと考えました。そのために我々は、かなり難しいテクノロジーを取り扱わないといけないのですが、そういう難しさも楽しめるような自分たちでありたいという想いを込めています。
このフィロソフィーを社員が日々の仕事をするうえでも感じてもらうために、PA THANKSの「スタンプ」機能にフィロソフィーの中から重要なキーワードをいくつか登録しました。サンクスカードを送るとき、内容に合ったスタンプをつけられるようにしています。この取り組みについてはどう思われますか?
正木氏 浸透を促進するうえで、このやり方はしっくりくるところがあります。フィロソフィーのような指針を浸透させていくには、やっぱり日常の中でちょっとずつ具体的に行動に落とし込んで考えるのが大事です。例えば御社の「行動指針」の中の「期待を超える」とは具体的にはどういうことなのか、その人なりにいろいろ理解をしていないと実践は難しい。でも、日常の中で「あ、これは期待を超えてたな」と感じて、相手に感謝や称賛を伝えるときには自分の中での理解も深まる。もらった側からしても、納得する場合もあればそうでない場合もあるかもしれませんが、いずれにせよ、自分が感じている「期待を超える」という行動を具体的に考える助けになるだろうと思います。
大きな理想へとつないでいくためにも、まずは第一歩を踏み出そう
正木氏 今日、お話をじっくりうかがったことで、最初に見せていただいた社長メッセージの内容から、コーポレートメッセージ、会社としてのフィロソフィー、感謝・称賛の伝え合いを推進する取り組みまで、それぞれが一貫してつながっているということが第三者としてもよくわかりました。実際に働いている方としても、資料1枚を見ているだけではこうした複数の理念や呼びかけ、施策などのつながりを理解できない部分があると思います。だからこそ、その意味でもまずは最も気軽に踏み出せる第一歩として、普段働くなかでサンクスカードなどを利用しながら感謝・称賛を伝え合い、ちょっとずつでもコミュニケーションが楽になったり、フィロソフィーに対する具体的イメージを持てるようになったりするといいと思います。それを繰り返していくうちに、どんどん、もっと上の目標や理想を目指せるようになってくるはずです。
(終わり)
登壇者紹介
田中 建(たなか けん)氏
ユニアデックス株式会社代表取締役社長
1985年日本ユニシス株式会社(現・BIPROGY株式会社)入社後、主に営業として流通、製造、金融業界を担当。2018年4月より日本ユニシス株式会社業務執行役員。2022年4月より現職。
ユニアデックス株式会社ウェブサイト:https://www.uniadex.co.jp/
正木 郁太郎(まさき いくたろう)氏
東京女子大学現代教養学部准教授
2017年東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程修了。博士(社会心理学)。専門は社会心理学・組織行動論。民間企業との業務委託やアドバイザーなど経験多数。2021年より東京女子大学専任講師、2024年より現職。
著書に『感謝と称賛』(東京大学出版会、2024年)、『職場における性別ダイバーシティの心理的影響』(東京大学出版会、2019年。2019年度日本社会心理学会賞出版特別賞受賞)
モデレーター紹介
藤田 友佳子(ふじた ゆかこ)
株式会社PHONE APPLI 執行役員 CWO(チーフウェルビーイングオフィサー)兼
マーケティング企画本部 ウェルビーイング経営推進部 部長
ご閲覧いただきありがとうございました。
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