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人的資本経営の実践で必要なウェルビーイングの考え方|実現に向けた課題や解決法も紹介

  • 人的資本経営で必要なウェルビーイングの考え方について知りたい
  • 人的資本経営とウェルビーイングの関係を知りたい
  • ウェルビーイングを実現させるための課題や解決法を知りたい

人的資本とは、従業員がもつスキルや知識、技術などを資本としてとらえる考え方です。また企業が人材の価値を最大限伸ばすことを目標とし、企業価値の向上を目指す経営のあり方でもあります。

そして人的資本経営を実践するために、ウェルビーイングの考え方を導入する企業が増えています。この記事ではウェルビーイングとはどのような考え方なのか、実現に向けた課題や解決法などをお伝えします。

ぜひ本記事をご覧になって、人的資本経営におけるウェルビーイングの考え方についての理解を深めましょう。

ウェルビーイングとは?

ウェルビーイング(Well-being)とは、個人が心身だけでなく、社会的、経済的にも満たされた状態であるという概念のことです。ウェルビーイングの考え方を企業経営に採り入れた経営手法が、ウェルビーイング経営です。これは企業の利益だけを追い求めず、従業員の肉体的、精神的、社会的幸福を実現する経営方法をいいます。

人材版伊藤レポート2.0では「経営者が従業員の健康状況を把握し改善することは、個人および組織のパフォーマンス向上に向けた重要な投資である」としています。そのため、戦略的かつ計画的に取り組むべき課題で、その際にウェルビーイングを高めるという視点もポイントです。

ウェルビーイングの5つの要素

ウェルビーイングはいろいろなモデルケースがありますが、とくに有名なのが以下の2つのモデルです。PERMAモデルと米ギャラップ社のモデルでは、ウェルビーイングの5つの要素について具体的なケースを示しています。

PERMAモデル

P Positive Emotion
ポジティブ感情
労働時間を減らしたり、テレワークを導入する
メンタルヘルスケアの実施
E Engagement
エンゲージメント
従業員満足度の調査を実施し、現状を確認する
社内のコミュニケーションを良好にし、帰属意識を高める
R Relationship
良好な関係性
誰もが使えるリフレッシュスペースをつくる
部活動推進や懇親会等の補助をおこなう
M Meaning
意味・意義
ワークライフバランスを意識した働き方の推奨
公平感のある人事評価制度の導入、キャリア形成の研修
A Accomplishment
達成・成功
資格取得の推奨福利厚生を充実させる

PREMAモデルは心理学者のマーティン・セリグマン博士が提唱したものです。ウェルビーイングは「ポジティブ感情」「エンゲージメント」「良好な関係性」「意味・意義」「達成・成功」の5つの要素から構成されているとしています。この5つの頭文字をとって、「PREMAモデル」と呼ばれています。

米ギャラップ

Career Wellbeing
キャリアの幸福
納得感のある人事評価制度
時短やテレワークなど、多様な働き方の導入
Social Wellbeing
人間関係の幸福
上司や部下、同僚と良好な関係ができている
心理的に脅かされない職場作り
Financial Wellbeing
経済的な幸福
仕事に対して充分な報酬がある
資産形成ができている
Physical Wellbeing
身体的な幸福
適度な睡眠と休息、運動などの時間が取れている
労働時間や業務量の改善、メンタルヘルスの向上
Community Wellbeing
地域社会での幸福
コミュニティに所属することで得られる安心感
地域住民と繋がりがある

ギャラップ社はアメリカの調査会社です。ギャラップ社では、世界140か国以上の国や地域で調査をおこない、得られたデータからウェルビーイングを構成するものとして、上記の5つの要素を導き出しました。

日本企業がウェルビーイングを実現できない5つの原因

グローバル企業ではすでに20年以上前からウェルビーイングに対する取り組みがされてきました。日本企業では大手企業を中心にウェルビーイングの考え方自体は広まりつつあるものの、満足に実現できている企業は少ないといえるでしょう。

ここでは、日本企業がウェルビーイングを実現できない主な原因を5つお伝えします。

1. 従業員エンゲージメントが低い

従業員エンゲージメントとは、従業員が組織の理念に共感し、業績向上のため自発的に組織に貢献したいと思う意欲です。2017年に米ギャラップ社がおこなった調査で、従業員エンゲージメントの強い社員の割合は6%。対象139か国中132位と大変低い状態でした。

日本企業では会社への帰属意識は高いものの、仕事に対する姿勢が受け身であり、上層部の考えに従う風潮が強いです。自分の仕事に対して意見や提案の機会が少ないことも、従業員エンゲージメントが低い理由の一つとされています。

2. ダイバーシティ推進が遅れている

ダイバーシティ経営とは、性別や国籍、障害などに関わらずさまざまな人材を活用し、一人ひとりが能力を最大限発揮できるようにする経営手法です。日本企業の中には男性優位の風潮、アンコンシャスバイアスが根強く残っており、日本国籍以外の人材を優先して登用する企業も多いです。

ジェンダー平等やダイバーシティの考え方自体は広まってきているものの、意識改革が追いついていない部分も大きいでしょう。 上層部や管理職から意識改革をおこなうような取り組みがポイントになります。


ダイバーシティ経営について詳しく知りたい人は、こちらの記事もご覧ください。

3. メンタルヘルス対応が進んでいない

うつ病などメンタルヘルスに関する対応が遅れていることも要因の一つです。管理職がメンタルヘルスの重要性や必要性を理解できておらず、従業員がストレスなど精神的な負担がかかってしまったときに、適切な対応ができない場合もあります。相談窓口の設置やストレスマネジメントのトレーニングなどの支援体制を整えるべきですが、その点が進んでいない企業も多いです。

経営者はメンタルヘルスに関する教育やトレーニングの重要性を理解し、まずは管理職へアプローチしていくことが必要です。

4. 福利厚生が充実している企業が少ない

福利厚生が不十分である問題もあります。企業の中には、福利厚生は社会保険や健康診断などの法律で定められている法定福利厚生のみ。特別休暇や在宅勤務制度など従業員の生活の質を向上させる内容を設置していない企業も多くあります。

福利厚生の制度自体が充実していても、従業員がうまく活用できていない場合もあります。ワークライフバランスを意識した福利厚生の制度を充実させていくことも、ウェルビーイング経営に近づくポイントです。

5. 企業と個人が成長する人事評価が普及していない

多くの日本企業では、成果や業績に重点を置いた評価体制が一般的です。とくに短期的な成果に良い評価が偏りがちになってしまうという問題点があります。

ウェルビーイングを実現するためには、成長や能力向上を評価する仕組みを普及させることが重要です。なぜなら企業に正当に評価してもらうことで、従業員のキャリアや経済的な満足度を上げられるからです。

個人の成長を評価する人事評価体制が整っていないと、個人の成長やスキルアップが見過ごされてしまう可能性があります。個人のスキルアップや学びへのやる気を育てることで、組織の成長にも繋がっていくでしょう。
ウェルビーイングを導入するうえでの課題について詳しく知りたい人は、こちらの記事もご覧ください。

人的資本経営の情報開示報告

人的資本の情報開示とウェルビーイングの関係は、組織が従業員の健康や幸福を重視し、組織の戦略的目標と結びつけることにあります。人的資本の情報開示義務化は、企業が従業員の価値や能力、組織文化などの非財務情報の公開を要求するものです。 この開示は、投資家やステークホルダーが企業の持続可能性や将来の成長潜在力をより深く理解するために重要です。

有価証券報告書に記載すべき3つの項目

  • サステナビリティに関する考え方および取り組み
  • 人的資本、多様性に関する情報
  • コーポレートガバナンスに関する情報

現在、有価証券報告書に記載すべき項目は上記の3つです。これらに関しては、2023年の内閣府令等の改正により、記載が義務となりました。

人的資本の情報開示「7分野19項目」の詳細

前項でお伝えした3つの項目は記載が義務となっていますが、以下の19項目に関しては、企業の取り組みの状況に応じて開示の対応を変更できます。

人的資本の情報開示「7分野19項目」の詳細は以下のとおりです。

7分野 19項目 具体例
人材育成 リーダーシップ育成スキル、経験 研修時間や研修受講率、リーダー育成、人材定着の取り組みなど
エンゲージメント 従業員満足度 企業や業務に対する従業員の満足度、エンゲージメント
流動性 採用維持サクセッション(後継者育成) 従業員の離職率や定着率、採用コスト、後継者カバー率など
ダイバーシティ ダイバーシティ非差別育休休業 男女間の給与の差、正社員・非正規社員の福利厚生の差、男女別で育児休業を取得している従業員数など
健康・安全 精神的健康身体的健康安全 労働災害の発生件数、労働災害による損失時間、労働関連の危険性に関する説明など
労働慣行 労働慣行児童労働、強制労働賃金の公正性福利厚生組合との関係 人権問題の件数、差別事例の件数、業務停止件数など
コンプライアンス・倫理 コンプライアンス コンプライアンスや人権などの研修を受けた従業員割合、児童労働・強制労働に関する説明など

人的資本の情報開示をおこなう際は、情報を客観的に比較できるデータにする、開示内容は組織の将来的なビジョンや経営戦略と合ったものにするなどの注意が必要です。人的資本経営を有効的におこなうためには、きちんと戦略を立てた上で開示することがポイントとなります。


人的資本の情報開示「7分野19項目」について詳しく知りたいときは、こちらの記事もご覧になってください。

コラム】ウェルビーイングと健康経営の違い

ウェルビーイングの方針を立てるとき、ウェルビーイングと健康経営の違いについても理解しておきたいポイントです

健康経営とは?

健康経営とは、企業の経営戦略の一つです。従業員の健康に配慮し、健康の維持、促進することで生産性や効率性の向上、従業員の満足度やモチベーションの向上を目指します。従業員の健康に配慮する手段をもって組織全体を活性化させ、業績向上などの経営的メリットに繋げることが目的です。

具体的には、健康診断や運動を促進するプログラムを提供するなどの経営的施策をおこないます。従業員の健康を重要な経営指標としてとらえ、従業員の健康へ投資する考え方を健康経営といいます。

一番の違いは「視点」

ウェルビーイング 健康経営
視点 従業員 経営者、管理職
きっかけ ボトムアップ(現場) トップダウン(経営側)
情報発信の仕方 多様性、包括性、公平性の達成 人的資本への投資
KPI 従業員ニーズのカバー率や働く機会の創出 費用対効果や生産性

健康経営とウェルビーイングは従業員の心身の健康を大切にするという共通点がありますが、一番大きな違いは「視点」です。ウェルビーイングは従業員の視点に立って施策を検討します。一方、健康経営は経営者や管理者が従業員を管理し、業績を上げるという視点で健康に関する施策を考えるものです。

また健康経営では「身体的、健康的」に健康であるかを重視しますが、ウェルビーイングではそれに加えて「社会的」に満たされているかどうかも見られます。

健康経営は従業員の健康を組織でどう活かすか考えます。一方、ウェルビーイングは組織の枠を超えて、広く従業員の幸せや健康について考えたものといえるでしょう。

健康経営とウェルビーイングの違いについて、さらに詳しく知りたい人はこちらの記事もご覧ください

【ツール紹介】人的資本経営で必要な人材スキルの可視化ができる「PHONE APPLI PEOPLE」の特長や機能とは

PHONE APPLI PEOPLE

導入企業

PHONE APPLI PEOPLE

従業員のスキルを可視化するためには、これらの情報を一元管理するツールが必要です。PHONE APPLI PEOPLEは、皆さんが連絡を取るために普段使いする電話帳、社内イントラネットのような用途で使われるサービスです。社内のメンバー同士のつながりを高めるために個々のメンバーが持つスキルや経験、パーソナリティ情報などを自己開示しあい、相互理解を深め、心理的な距離を縮めて、活発な協働を促すことが可能です。
さらに詳しい方法についてこちらの資料でも解説しております。資料ダウンロードは無料なのでぜひ、こちらをご覧いただけますと幸いです。

【事例紹介】ロート製薬株式会社|個人と会社の成長のために人財マネジメントを体系化

【引用】ロート製薬


ロート製薬は、一般用医薬品やスキンケア事業を中心とし、健康・未病から治療まで幅広く事業を展開している企業です。眼科医療や再生医療にも注力しています。創業当時より「お客さまを健康にするためには、従業員が健康であれ」という考え方を持っていたロート製薬。2003年から「ARK(アーク)プロジェクト」という有志社員による働きやすさやモチベーションの問題など経営課題の検討、提案をする活動を行なっています。

健康診断の充実や体力測定の実施で運動習慣や健康づくりへのきっかけを作り、健康に関する取り組みを継続できる仕組みが考えられています。

たとえば「1日8,000歩、早歩き20分」を推奨し、達成率に応じて健康社内通貨「ARUCO」が貯まる取り組み。社内通貨は健康グッズや健康診断のオプション費用などさまざまなもので利用できます。

喫煙率0%を目指して、卒煙サポートの取り組みもおこなわれ、2018年に11.9%だった喫煙者が2020年には0.1%になったという成果も出ています。

健康促進対策を通じて社員同士のつながりやコミュニケーション量が増加し、社会的な充実感も高められているようです。

【まとめ】人的資本経営の実践で必要なウェルビーイングの考え方について

本記事では、人的資本経営の実践で必要なウェルビーイングの考え方について解説しました。ウェルビーイング(Well -being)とは、個人が心身だけでなく、社会的、経済的にも満たされた状態であるという概念のことです。ウェルビーイングは以下の要素で構成されていると定義しています。


■PREMAモデル
  • Positive Emotion(ポジティブ感情)
  • Engagement(エンゲージメント)
  • Relationship(良好な関係性)
  • Meaning(意味・意義)
  • Accomplishment(達成・成功)


■ギャラップ社
  • Career Wellbeing(キャリアの幸福)
  • Social Wellbeing(人間関係の幸福)
  • Financial Wellbeing(経済的な幸福)
  • Physical Wellbeing(身体的な幸福)
  • Community Wellbeing(地域社会での幸福)

ウェルビーイング経営を実現するためには、まずは今ある福利厚生や人事評価システムなどについて現状を把握し、見直していく必要があると考えられます。その上で、従業員と組織の双方が充実し、成長できる仕組みづくりをしていきましょう。本記事が、ウェルビーイング経営への第一歩になれば幸いです。

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