企業が人的資本を情報開示する目的は?開示19項目や3つの注意点を解説
- 何のために人的資本の情報開示を行うのだろうか
- 開示するべき情報を具体的に知りたい
- 人的資本の情報開示を行う際の注意点も押さえておきたい
人的資本とは、それぞれの従業員がもつ知識やスキルを「資本」として捉え、端的にいえば「従業員を大切にする経営」です。企業が人材の価値を高め、企業全体の価値やブランディング向上を目指します。
しかしながら、人的資本経営を行う際は「情報開示」が必要不可欠です。本記事では、人的資本に関して次の項目を解説します。
ぜひ本記事を参考にして、人的資本の情報開示ついての理解を深めましょう。なお人的資本について基本的な内容を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
人的資本の情報開示の概要と目的
人的資本の情報を開示することには、どのような目的や背景があるのでしょうか。ここで詳しく解説します。
人的資本開示の目的
人的資本の情報開示をする最大の目的は、ステークホルダー(利害関係者)にアピールするためです。
自社では人材を資源ではなく「資本」として捉え、人的資本経営にしっかりと取り組んでいることを、株主や取引先、顧客などに周知させる目的があります。なお人的資本の情報開示は、人的資本に関する情報開示のガイドライン「ISO30414」に準拠。2018年に公開され、同ガイドラインをもとに、各国で人的資本についての取り組みが行われています。
人的資本開示が義務化された背景
人的資本の情報開示は、2023年から義務化されています。その背景にあるのは、「無形資産」の価値の高まりです。
これまでの会社経営では、現金や商品在庫、建物、機械など「有形資産」が重要視されていました。ステークホルダーは、企業の有形資産の状況を見て、投資に値するか、融資を承認すべきかなどを判断していたのです。しかしリーマンショック以降は、風向きが大きく変化し、有形資産には次のようなリスクがあると考えるステークホルダーが増えました。
- 金銭的な価値は見えても、企業の労働環境が見えない
- 実際に働いている従業員の満足度や定着率が見えない
そのため上記などの理由から、人的資本のような「無形資産」で企業を判断する流れになっています。人的資本開示の義務化については、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご参考ください。
人的資本で情報開示する7分野・19項目
企業が情報開示を行う際は、「人的資本可視化指針」を参考にしましょう。開示が求められる分野や項目は以下のとおりです。
7分野 | 19項目 | 具体例 |
---|---|---|
人材育成 | リーダーシップ育成スキル、経験 | 研修時間や研修受講率、リーダー育成、人材定着の取り組みなど |
エンゲージメント | 従業員満足度 | 企業や業務に対する従業員の満足度、エンゲージメント |
流動性 | 採用維持サクセッション(後継者育成) | 従業員の離職率や定着率、採用コスト、後継者カバー率など |
ダイバーシティ | ダイバーシティ非差別育休休業 | 男女間の給与の差、正社員・非正規社員の福利厚生の差、男女別で育児休業を取得している従業員数など |
健康・安全 | 精神的健康身体的健康安全 | 労働災害の発生件数、労働災害による損失時間、労働関連の危険性に関する説明など |
労働慣行 | 労働慣行児童労働、強制労働賃金の公正性福利厚生組合との関係 | 人権問題の件数、差別事例の件数、業務停止件数など |
コンプライアンス・倫理 | コンプライアンス | コンプライアンスや人権などの研修を受けた従業員割合、児童労働・強制労働に関する説明など |
情報開示を行う7分野・19項目について、詳しくは以下の記事をご参考ください。
企業が情報開示するメリット5つ
企業が人的資本の情報開示をするメリットとして、次の5つがあげられます。
企業が情報開示するメリット
- 従業員の能力を視覚化できる
- チームの生産性が向上する
- 人材採用をブラッシュアップできる
- 投資家や株主と明瞭で論理的な対話ができる
- 企業のブランド価値が向上する
1. 従業員の能力を視覚化できる
人的資本経営では、画一的な教育でなく、従業員個人の能力に合わせた教育を行うのが一般的です。能力が可視化されることで、企業も適切に評価できるようになります。個人の能力をしっかりと把握、管理できれば、従業員からの不平不満が減り、結果的にエンゲージメント向上にもつながるでしょう。
2. チームの生産性が向上する
人的資本経営の「人材に投資する」という考え方では、従業員それぞれがパフォーマンスを発揮できるように、個々の多様性を認めて働き方を整備します。個人としての生産性はもちろん、チーム・組織としての生産性向上にもつながるでしょう。
3. 人材採用をブラッシュアップできる
人的資本の開示では、企業がどのくらい人材育成に注力していて、どのくらいの人材が定着しているのか、といった企業の実態を示します。就職希望者は、そうした「企業で働く人材の実態」がわかるため、企業を慎重に選ぶようになります。企業側も、希望者から選ばれるために人材採用をブラッシュアップする必要が出てくるのです。
4. 投資家や株主と明瞭で論理的な対話ができる
人的資本の情報開示によって、人材に関するどのような投資をどの程度行っているのか可視化されます。したがって、投資家や株主といったステークホルダーとの会話の糸口となります。投資家や株主からの意見や評価、フィードバックを受け入れ、自社の経営方針に反映させることで、商品やサービス、企業のブランド向上につながります。
5. 企業のブランド価値が向上する
人的資本経営は、わかりやすくいえば「従業員を大切に扱う経営」です。個人の能力に合わせた教育を行ったり、働きやすい環境を整えたりと、従業員の生産性やエンゲージメント向上のための投資をします。人的資本に投資している企業はステークホルダーからの評価が高まり、結果的にブランド価値も高まるのです。ブランド価値の向上は、顧客満足度にも良い影響を与えます。
人的資本の情報を開示するときの注意点3つ
人的資本を開示する際は、以下の点にも注意しましょう。
- 開示情報をなるべく定量化する
- 施策の説得力が増すストーリー性を意識する
- 独自性と比較可能性をバランスよく組み合わせる
1. 開示情報をなるべく定量化する
開示情報はできるだけ定量化(数値として示す)しましょう。たとえば、人材育成に関する研修なら〇時間、人材定着なら〇%など具体的な数字で表すことで、内容に説得力が生まれます。開示情報に説得力が生まれれば、ステークホルダーからの信頼にもつながるでしょう。
2. 施策の説得力が増すストーリー性を意識する
開示情報にストーリー性をもたせるのも重要なポイントです。ただ単に取り組み結果をまとめるだけでなく、人的資本経営を実現するための戦略にストーリー性をもたせましょう。たとえば、施策を行おうと思った背景や、企業理念と施策との結びつきなどを説明します。ストーリーの重要性は「人的資本可視化指針」にも記載されています。
3. 独自性と比較可能性をバランスよく組み合わせる
「人的資本可視化指針」だけを参考にすると、他の企業と似たような開示情報になってしまいます。そのため、自社ならではの独自性と比較可能性(情報を比較できるかどうか)が重要です。独自性と比較可能性をバランスよく組み合わせることで、ステークホルダーにも自社の優位性を示せます。
【ツール紹介】人的資本経営で必要な人材スキルの可視化ができる「PHONE APPLI PEOPLE」の特長や機能とは
従業員のスキルを可視化するためには、これらの情報を一元管理するツールが必要です。PHONE APPLI PEOPLEは、皆さんが連絡を取るために普段使いする電話帳、社内イントラネットのような用途で使われるサービスです。社内のメンバー同士のつながりを高めるために個々のメンバーが持つスキルや経験、パーソナリティ情報などを自己開示しあい、相互理解を深め、心理的な距離を縮めて、活発な協働を促すことが可能です。
さらに詳しい方法についてこちらの資料でも解説しております。資料ダウンロードは無料なのでぜひ、こちらをご覧いただけますと幸いです。
【事例紹介】株式会社丸井グループ|男女の多様性を実現する「女性イキイキ指数」を記載
【引用】 丸井グループ
株式会社丸井グループはファッションビルの「丸井」をはじめ、ファッション物流、フィンテックまで幅広い事業を展開する会社です。同社では「人の成長=企業の成長」と捉え、人的資本経営を行っています。具体的には「女性イキイキ指数」というKPIを実施。従業員4435名(2023年3月時点)のうち約45%が女性であることを活かし、女性従業員の活躍度合いやリーダー育成、上位職志向などを数値化しています。指数によって人的資本を定量的に開示できることに加え、「女性従業員が多い」「女性に特化したKPIを実施」というストーリー性も生まれている事例です。
【まとめ】人的資本を情報開示する目的と注意点について
本記事では、人的資本の情報開示について次のポイントをお伝えしました。
- 人的資本を情報開示する最大の目的はステークホルダー(利害関係者)にアピールすること
- 2023年から義務化されており、ステークホルダーは「無形資産」で企業を判断する流れになっている
- 開示情報をできるだけ定量化し、ストーリー性を意識することが大切
情報開示では項目を数値化し、ストーリー性を意識することで、ステークホルダーへの説得力を高められます。元より「従業員を大切にする経営」を行うことは、組織力の向上にもつながるでしょう。本記事の内容が、人的資本経営にお役立ちできることを願っています