人的資本経営

人的資本経営の取り組み手順や具体的な施策、成功事例を紹介

  • 人的資本経営の情報開示の手順を知りたい
  • 人的資本経営ではどのような施策を行うべきなのだろうか
  • 人的資本経営を始める前に必要な情報を押さえておきたい

人的資本経営とは、従業員一人ひとりがもつ知識やスキルを「資本」として捉え、それを経営に反映させることです。自社でも人的資本経営を進めたいと考えているが、手順や施策がわからず、悩んでいる方もいらっしゃるでしょう。

そこで本記事では、人的資本経営の取り組みについて、次のポイントを中心に解説します。



なお、人的資本経営の概要について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

人的資本経営の取り組み手順

さっそく、人的資本経営の取り組み手順について解説します。人的資本経営は以下の5つのステップで進めましょう。

  • 1.経営課題と人材戦略の紐づけをする
  • 2.目標と現状のギャップを可視化する
  • 3.目標達成のためKPIを設定する
  • 4.ギャップを埋める施策を実行する
  • 5.実行した施策の効果を検証をする

1. 経営課題と人材戦略の紐づけをする

まずは、自社の経営課題と人材戦略を紐づけるところから始めます。経営課題の大枠を掴み、人材戦略で解像度を高めるイメージです。たとえば「人材が定着しない」が経営課題の場合、「働きやすい環境を整えて従業員の離職率低下につなげる」を人材戦略として設定します。

まずは、組織全体として何が課題になっているのか把握し、優先順位をつけましょう。その課題が人材戦略の観点から解決できないか探ることが大切です。

2. 目標と現状のギャップを可視化する

次のステップは、目標と現状のギャップの「見える化」です。人的資本経営における目標を設定し、その目標と現状がどのくらい離れているのか可視化しましょう。現状がわかれば、目標に近づくために実施すべき施策が明確になります。

3. 目標達成のためKPIを設定する

目標と現状のギャップが明確になったら、続いてKPIを設定します。KPIとは「重要業績評価指標(Key Performance Indicator)」の略語で、目標達成までのプロセスを細かく分け、達成度合いを図るものです。

たとえば、従業員満足度を向上させるという目標がある場合、「従業員アンケートの結果から改善を繰り返し、離職率の推移をチェックする」がKPIです。

大枠の目標を定めた後、達成するために何が必要なのか、何から着手すべきかを書き出します。実際にアクションを実行した後、進捗や達成度合いをデータやグラフで追いましょう。

4. ギャップを埋める施策を実行する

KPIを設定したら、具体的な施策をおこない、目標とのギャップを埋めましょう。施策を進めるなかで、従業員から不満が出たり、思うように動いてくれなかったりする可能性もあります。

そうしたトラブルに対する対策も考慮することで、施策の実行がスムーズになります。

5. 実行した施策の効果を検証をする

施策を行ったら効果検証に進みます。効果検証では「PDCAサイクル」を意識しましょう。PDCAとはPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字をサイクル化したものです。

施策を計画、実行したのち、どのような効果が表れたのか評価しましょう。そして、評価をもとに改善アクションを実行します。この繰り返しによって施策がブラッシュアップされ、より良い人的資本経営にとつながります

人的資本経営に取り組むための施策

続いて、人的資本経営に取り組むための具体的な施策をご紹介します。

  • 1.人材ポートフォリオを構築する
  • 2.経営目標や課題を企業内で共有する
  • 3.ワークライフバランスを見直す
  • 4.ダイバーシティを受け入れる
  • 5.社内教育を充実させる
  • 6.給与や賞与、福利厚生など待遇面を充実させる

1. 人材ポートフォリオを構築する

自社の人的資本をまとめた「人材ポートフォリオ」の構築です。従業員を育成したり、適材適所に配置したりするためにも人材ポートフォリオは有効といえます。ポートフォリオには次のような項目をまとめます。

  • 職務経験
  • スキルや能力
  • 人柄や人物像
  • 成長意欲やモチベーション
  • 本人に求める行動

従業員のキャリアや特性、意欲などを視覚化することで、適切な人材戦略を決められます。

2. 経営目標や課題を企業内で共有する

経営目標や課題の共有も、人的資本経営においては重要です。社内全体あるいはチームで共有すれば、従業員それぞれが、目標到達・課題解決するために取るべき行動を把握できます。定期的な共有によって、個人の成長意欲やモチベーション向上にもつながるでしょう。

3. ワークライフバランスを見直す

従業員のワークライフバランスを考慮することも、大切な施策のひとつです。最近では働き方改革が推進され、仕事とプライベートのバランスを意識する人が増えました。

ワークライフバランスが取れている従業員は、仕事に対するモチベーションも高まりやすいです。従業員が公私ともに充実し、働きやすい環境を整えられているか、改めて確認する必要があるでしょう。

4. ダイバーシティを受け入れる

人的資本経営では従業員の個性を受け入れ、うまく反映することも求められます。そのためにはダイバーシティ(多様性)に対して、企業側が寛容であることが重要です。

国籍や学歴、性別、キャリアなどさまざまな面において、偏見なく寛容に受け入れましょう。そのためには、企業全体でダイバーシティを理解するための教育の機会必要になります。その際、従業員への教育はもちろん、経営層にもダイバーシティの教育が必要です。

人的資本経営におけるダイバーシティへの理解については、こちらの記事で詳しく解説しているので、ご参考ください。

5. 社内教育を充実させる

人的資本経営では、画一的な教育ではなく、個人のスキルや能力に合わせて教育を行うため、充実した教育体制が必要です。たとえば、オフィスでの対面研修だけでなく、リモート環境でも研修できたり、eラーニングによって従業員が主体的に学べたりする環境づくりも求められます。

6. 給与や賞与、福利厚生など待遇面を充実させる

給与や賞与、福利厚生などの待遇面の充実も、従業員のモチベーションを高めるために重要です。報酬が労働に見合っていなければ、従業員も離れてしまうでしょう。

上記5つの施策を行って会社に利益が出た場合、それを従業員に還元することで、エンゲージメントが高まり、さらなる発展につながります。

人的資本経営が企業にもたらす5つのメリット

人的資本経営には、以下の5つのメリットがあります。

  • 1.従業員の能力を可視化できる
  • 2.従業員のエンゲージメントが向上する
  • 3.生産性が向上する
  • 4.企業のブランド価値が上がる
  • 5.ステークホルダーからの評価が上がる

人的資本経営では、適切な評価をするために、個人の能力を「見える化」させます。結果、適材適所に人材を配置でき、従業員のエンゲージメントやチームとしての生産性向上につながるのです。

また、自社が人的資本に投資していることアピールできるので、ステークホルダーからの評価が高まります。結果、企業のブランド価値向上にもつながるでしょう。

人的資本経営のメリットについて、詳しくは以下の記事で解説しています。

人的資本経営で情報開示すべき項目

人的資本経営における情報開示は、「有価証券報告書に記載すべき項目」と「政府が開示すべきとする項目」の2つに分類できます。

有価証券報告書に記載すべき3つの項目

まず、有価証券報告書に記載すべき項目として以下のものがあります。

分野 項目
サステナビリティ情報 人材育成方針社内環境整備方針
多様性に関する情報 女性管理職比率男性育休取得率男女間賃金格差人的資本や多様性の測定可能な指標と目標
コーポレートガバナンスに関する情報 取締役会や各委員会の活動状況内部監査に関する取り組み内容など

上記の分野は、これまでの財務情報では把握が難しいものの、企業に投資すべきかの判断材料として重要であることから、記載が義務付けられています。

政府が開示を推奨するおふぃそ「7分野19項目」の詳細

人的資本の情報開示は、2022年に内閣官房が公開した「人的資本可視化指針」をもとに行います。開示が必要な7分野19項目は以下のとおりです。

7分野 19項目
人材育成 リーダーシップ育成スキル、経験
エンゲージメント 従業員満足度
流動性 採用維持サクセッション(後継者育成)
ダイバーシティ ダイバーシティ非差別育休休業
健康・安全 精神的健康身体的健康安全
労働慣行 労働慣行児童労働、強制労働賃金の公正性福利厚生組合との関係
コンプライアンス・倫理 コンプライアンス

各項目で具体的にどのような取り組みをしているのか、状況がどうなっているか、をデータを用いて開示します。以下の記事では7分野・19項目すべてを詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。

【ツール紹介】人的資本経営で必要な人材スキルの可視化ができる「PHONE APPLI PEOPLE」の特長や機能とは

PHONE APPLI PEOPLE

導入企業

PHONE APPLI PEOPLE

従業員のスキルを可視化するためには、これらの情報を一元管理するツールが必要です。PHONE APPLI PEOPLEは、皆さんが連絡を取るために普段使いする電話帳、社内イントラネットのような用途で使われるサービスです。社内のメンバー同士のつながりを高めるために個々のメンバーが持つスキルや経験、パーソナリティ情報などを自己開示しあい、相互理解を深め、心理的な距離を縮めて、活発な協働を促すことが可能です。
さらに詳しい方法についてこちらの資料でも解説しております。資料ダウンロードは無料なのでぜひ、こちらをご覧いただけますと幸いです。

人的資本経営に成功した企業事例

1. 旭化成株式会社|従業員が自律的に成長できる環境づくりを行う

【引用】旭化成


旭化成株式会社は、生活製品や繊維、エレクトロニクス、医薬品などを生産する総合化学メーカーです。同社では「人は財産」を掲げており、従業員の「終身成長」と「共創力」の2つの観点から、人材戦略を実行しています。

「終身成長」では、従業員が自律的にキャリアを形成し成長を実現するための施策を実施。独自のeラーニングシステム「CLAP」を運用したり、シニアの活躍推進・定年延長などを行っています。ほかにもチーム全体の力を引き出すためのエンゲージメント向上施策や、次世代リーダーの育成なども行っています。

「共創力」では、多様性を受け入れながら、従業員の個性や専門性を引き出すための施策を実施。場所や時間にとらわれない働き方や事業領域をまたいだ人事異動、海外の優秀な人材登用といった取り組みを行っています。

2. 花王株式会社|従来のKPIではなく挑戦と連携を重視するOKRを導入

https://phoneappli.net/well-being-note/kao_okr.jpg

【引用】花王株式会社


花王株式会社は、ハイジーン&リビングケア(暮らしに関する製品)や、ヘルス&ビューティケア事業などを行う会社です。

同社では、目標を達成するために用いられる手法「OKR」を実施。従業員を「会社の最大の資産」と捉え、一人ひとりのパフォーマンス最大化を通じて、チーム・組織としての目標達成にコミットしています。

従業員それぞれが「花王をより良い企業にするために、自分がチャレンジできることとは」を考え、みずから目標を設定。OKRは社内で共有されるため、部署や職種の垣根を超えて、互いにサポートし合う体制が作られています。

【まとめ】人的資本経営の取り組み手順と具体的な施策について

本記事では、人的資本経営について以下のポイントを中心に解説しました。

  • 人的資本経営では「経営課題」と「人材戦略」を紐づけ、具体的な目標設定をすることが大切
  • 効果的な施策として、人材ポートフォリオやワークライフバランスの見直し、給与・待遇の充実などがある
  • 情報開示では「有価証券報告書に記載すべき項目」と「政府が開示すべきとする項目」の2つがある

人的資本経営では、いかに「人材」の観点から「経営」にアプローチし、企業全体の利益・ブランド価値向上につなげられるかが重要です。お伝えした手順や施策を、ぜひ貴社の経営にもお役立てください。

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