人的資本経営

人的資本の情報開示「7分野19項目」について|注意点や事例も紹介

  • 人的資本の情報開示「7分野19項目」について詳しく知りたい
  • 人的資本の情報開示をおこなうときの手順ややるべきことを知りたい
  • 人的資本の情報開示をするときの注意点を知りたい

人的資本とは、従業員がもつスキルや知識、技術などを資本として捉える考え方です。また企業が人材の価値を最大限伸ばすことを目標とし、企業価値の向上を目指す経営のあり方でもあります。

人的資本の情報開示は、企業が従業員のスキル、経験、給与、教育、福利厚生などに関する情報を公開することです。これによって、企業内外のステークホルダーに対し、従業員の価値や組織の人的資本管理に関する透明性を確保できます。

人的資本の情報開示をするときは、具体的な手順や注意点などについて知っておきましょう。



ぜひ本記事をご覧になって、人的資本の情報開示「7分野19項目」についての理解を深めましょう

人的資本の情報開示「7分野19項目」の詳細

人的資本の情報開示は、「人的資本可視化指針」を元に開示をおこないます。 人的資本可視化指針とは、2022年に内閣官房が公開したものです。こちらは企業向けにガイドラインの活用法や開示項目の具体例など、人的資本の情報開示に関する指針が記載されています。人的資本可視化指針の開示項目の具体例などから、7分野19項目について説明します。

1. 人材育成に関する分野

人材育成に関する分野で開示すべき項目は以下の3つです。

  • リーダーシップ
  • 育成
  • スキル、経験

研修時間や研修受講率、スキル向上プログラムの種類や対象について開示します。またリーダー育成、人材確保、定着のための取り組みなども対象になります。

2. エンゲージメントに関する分野

エンゲージメントとは、従業員が組織の理念に共感や貢献、満足しているかを測る指標として重要視されています。エンゲージメントに関する分野は以下のとおり、従業員満足度について開示します。

  • 従業員満足度

組織に対して自発的に業績向上に貢献する意欲があるかどうかを見るものです。

3. 流動性に関する分野

流動性とは、離職、転職など人材の入れ替わりについて指します。流動性に関する分野で開示すべき項目は次の3つです。

  • 採用
  • 維持
  • サクセッション(後継者育成)

ここでは新規採用や定着率、採用コスト、後継者カバー率、求人に対して採用するために必要な期間などについて開示します。

4. ダイバーシティに関する分野

ダイバーシティとは人々の多様性を尊重し、包括的な環境を築くことを目指す価値観です。ダイバーシティに関する分野で開示すべき項目は以下の3つです。

  • ダイバーシティ
  • 非差別
  • 育児休業

男女間の給料差、育児休業取得後の復職、離職率、男女別育児や家族に関する休業取得比率、取得数などについて開示します。

5. 健康・安全に関する分野

健康、安全に関する分野は次の3つの項目です。

  • 精神的健康
  • 身体的健康
  • 安全

具体的には労働災害の発生件数、健康や安全に関する取り組みの説明、業務上のインシデントが組織に与えた金銭的な影響額を開示します。また医療やヘルスケアサービスの利用促進、その適用範囲について適切な説明がおこなわれているかなども開示します。

6. 労働慣行に関する分野

労働慣行とは、企業のなかで労働者や雇用主の間で共有される労働に関する慣行やルールであり、なかには法律や規制には直接関係しない場合もあります。

  • 労働慣行
  • 児童労働、強制労働
  • 賃金の公正性
  • 福利厚生
  • 組合との関係

労働慣行は、労働者の待遇や労働条件、労働時間などに関するさまざまな側面に影響を与える可能性があるものです。団体労働協約の対象となる従業員の割合、児童労働・強制労働に関する説明、結社の自由や団体交渉の権利等に関する説明がされているかなどを開示します。

7. コンプライアンス・倫理に関する分野

最後にコンプライアンスや倫理に関する分野です。

  • コンプライアンス

ここでは業務停止件数、苦情件数、懲戒処分の件数と種類について開示します。コンプライアンスや人権等の研修を受けた人の割合なども開示の対象です。

人的資本の情報開示の対象企業

人的資本の情報開示の対象企業は上場企業などを対象に、2023年3月期決算から義務化されています。具体的には、金融商品取引法第24条で「有価証券報告書」を発行している大手企業の約4,000社が対象です。

有価証券報告書に必ず記載しなければいけない事項は、サステナビリティ情報(※)の記載欄のうち「戦略」「指標および目標」の2つです。>戦略については、「人材育成方針」「社内環境整備方針」について記載します。一方の指標および目標については、「測定可能な指標目標および進捗状況」について開示することを義務付けられました。

さらに、すでに女性活躍推進法等に基づき「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表している企業は、具体的な指標を開示する義務が発生しました。

※サステナビリティ情報...企業が環境・社会・経済の3つの観点から、持続可能な社会の実現に貢献するためにおこなっている活動や取り組みの情報

人的資本開示の手順とやるべき3つのこと

人的資本開示の手順と、開示の際にやるべきことを3つ説明いたします。

人的資本開示の手順

では実際に、人的資本開示の手順を説明いたします。

【引用元】人的資本可視化指針 - 内閣官房 非財務情報可視化研究会

  • Step1:まず、自社の人的資本と人材戦略を整理する
  • Step2:制度開示に対応しながら、可能な範囲で人的資本と人材戦略を開示する
  • Step3:開示に対するフィードバックを受けとる
  • Step4:フィードバックを考慮し、人材戦略を再検討する
  • Step5:見直された人材戦略を基に、人的資本への投資を実行する
  • Step6:定量的な目標と指標を設定し、継続的に人的資本への投資とその結果を分析する

1.データの計測環境を整備する

まず現在の状況を正確に把握するために、データの計測環境を整えましょう。正確な情報を収集するには、マネジメントシステムなど計測ツールがオススメです。結果を数値で把握するため、施策の効果を容易に確認できます。

2. 目標とKPIを設定する

次に、目標とKPIを設定します。従業員のスキル向上や労働環境の改善など、具体的な目標を設定しましょう。KPIは目標の進捗や成果を定量的に測定するための指標です。目標達成へのプロセスが可視化できるため、従業員のやるべきことがわかりやすくなるでしょう。

3. 現状と理想のギャップを埋める

最後は、現状と理想のギャップを埋めることです。もし目標に届かなかったのであれば、どのような問題や課題があるのかを特定し、そのギャップを埋めるための人材戦略を立てます。必要に応じて見直しをすることで、人的資本経営が実現できるようになるでしょう。

人的資本の情報を開示するときの注意点3つ

人的資本の情報開示は、内外部のステークホルダーに自社の施策をアピールするためのものでもあります。そのため、なんの戦略もなくただ情報開示するだけでは効果的とはいえません。

ここではどのようにして開示項目を決定していくかなど、注意点について3つお伝えします。

開示情報をなるべく定量化する

開示情報のデータはなるべく定量化して記載しましょう。情報を定量的な指標や数値データなどに変換し数値化することで、情報の分析や比較、評価がしやすくなります。

たとえば従業員の平均給与や教育レベルなどのデータを収集した場合、数値化することで組織の人的資本の状況を定量的に把握することが可能です。

開示情報のデータを定量化することで、分析やパフォーマンスの評価、目標の再設定と修正など、収集したデータをより効果的に活用できます。また客観的に見られるデータは、ステークホルダーに対する説得力も増します。

施策の説得力が増すストーリー性を意識する

ストーリー性を意識することも重要です。
人的資本経営を目指すうえで、人的資本の情報開示は、ただデータをまとめて開示するだけでは不十分といえます。前章でもお伝えしたとおり、経営戦略や人材戦略の最終目標と、そこにつながるストーリーが重要です。

ステークホルダーは人材戦略に対する課題とその理由、課題を解決するための施策内容などをチェックします。目標に向けた戦略にストーリー性がないと、行き当たりばったりで短絡的な目標であると判断されやすいです。ストーリーを持たせることで効果的に情報を伝え、理解を促進する効果もあります。

人材戦略に対する取り組みは、経営戦略とのつながりを意識し「取り組みに対する説得力があるストーリーになっているかどうか」を意識しましょう。

独自性と比較可能性をバランスよく組み合わせる

自社独自の経営、人材戦略と比較可能性が重視される事項をバランスよく組み合わせましょう。比較可能性とは、投資家など外部のステークホルダーが他企業と比較できるデータのことをいいます。

自社ならではの特徴や取り組み、他と異なる点を強調することで独自性を出しつつ、同時に他社や業界の標準や水準との比較ができる形式で情報を提示します。そして自社の成果を客観的に評価できるような情報開示を目指します。

ただ数値データや統計を開示するだけでなく、データを裏付けるストーリーや事例を交えると独自性と比較可能性を両立させやすいです。

独自性と比較可能性をバランスよく組み合わせることで、情報開示がより効果的になり、説得力を持たせられるでしょう。

【ツール紹介】人的資本経営で必要な人材スキルの可視化ができる「PHONE APPLI PEOPLE」の特長や機能とは

PHONE APPLI PEOPLE

導入企業

PHONE APPLI PEOPLE

従業員のスキルを可視化するためには、これらの情報を一元管理するツールが必要です。PHONE APPLI PEOPLEは、皆さんが連絡を取るために普段使いする電話帳、社内イントラネットのような用途で使われるサービスです。社内のメンバー同士のつながりを高めるために個々のメンバーが持つスキルや経験、パーソナリティ情報などを自己開示しあい、相互理解を深め、心理的な距離を縮めて、活発な協働を促すことが可能です。
さらに詳しい方法についてこちらの資料でも解説しております。資料ダウンロードは無料なのでぜひ、こちらをご覧いただけますと幸いです。

【事例紹介】オムロン株式会社|企業理念の実践に向けた人財戦略の徹底

【引用】オムロン


オムロンは、ヘルスケア事業や電子部品事業、社会システム事業などを展開する企業です。体重計などで有名ですが、電子部品や駅の券売機など幅広い分野で事業を展開しています。

オムロンでは中長期の人財戦略として、重要なポジションの充足とリーダーの育成、登用に焦点を当てています。グループ全体で持続的な成長を達成するために、最適な人材の配置や採用・育成に力を入れているのです。

「人的創造性」という指標を設定し、一人ひとりの能力発揮による価値創造の成長を追求しています。2024年度には、この指標を2021年度比で+7%向上させることを目標とし、人的資本の効果的な活用を推進しています。

【まとめ】人的資本の情報開示「7分野19項目」について

本記事では、人的資本の情報開示「7分野19項目」について解説しました。

1. 人材育成に関する分野 リーダーシップ・育成・スキル
2. エンゲージメントに関する分野 従業員満足度
3. 流動性に関する分野 採用・維持・サクセッション
4. ダイバーシティに関する分野 ダイバーシティ・非差別・育児休業
5. 健康・安全に関する分野 精神的健康・身体的健康・安全
6. 労働慣行に関する分野 労働慣行・児童労働、強制労働・賃金の公正性・福利厚生・組合との関係
7. コンプライアンス・倫理に関する分野 コンプライアンス

人的資本の情報開示をおこなうためには、まず自社の経営、人材戦略を整理し、組織をどうしていきたいかというビジョンを明確にします。必要なデータを収集する環境を整え、開示準備をしていきましょう。

そして情報開示の際には、情報を客観的に比較できるデータにすること、ストーリー性を意識することで施策の説得力を上げられます。内外のステークホルダーに伝わりやすい開示を心がけることで、組織の成長につなげられるでしょう。

本記事の内容が、人的資本経営に役立てていただけたら幸いです。

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