人的資本経営

人的資本の情報開示が義務化された内容や企業にもたらす影響を解説

  • 人的資本の情報開示で義務化された内容を知りたい
  • いつ義務化されたのか、対象企業についても知りたい
  • 人的資本を情報開示する手順も押さえておきたい

人的資本とは、それぞれの従業員がもつ知識やスキルを「資本」として捉える考え方のこと。従業員を大切にする考え方を経営に取り入れたのが人的資本経営です。人的資本経営では「情報開示」が義務化されています。本記事では、人的資本の義務化について次の項目を解説します。



なお人的資本について基本的な内容を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

人的資本の情報開示が義務化された対象企業と開示内容

人的資本の情報開示は2023年3月より義務化されています。開示には大まかに分けると「有価証券報告書に開示する情報」と「政府が開示すべきといっている7分野19項目」があります。ここでは、どのような企業が対象で、何を開示すべきなのか、ここで解説します。

情報開示の対象企業

人的資本の上場開示が求められるのは、主に上場企業です。具体的には、金融商品取引法第24条で「有価証券報告書」を発行する大手企業の約4,000社が対象となります。

有価証券報告書への開示が義務付けられた内容

有価証券報告書は、株式を発行する企業に提出が求められます。金融商品取引法で開示が義務付けられており、ステークホルダー(主に投資家)が投資判断しやすくするため、といった目的があります。有価証券報告書に記載すべき項目として以下のものがあげられます。

分野 項目
サステナビリティ情報 人材育成方針社内環境整備方針
多様性に関する情報 女性管理職比率男性育休取得率男女間賃金格差人的資本や多様性の測定可能な指標と目標
コーポレートガバナンスに関する情報 取締役会や各委員会の活動状況内部監査に関する取り組み内容など

政府が開示を推奨する7分野19項目

人的資本の情報開示は、2022年に内閣官房が公開した「人的資本可視化指針」をもとに行います。実際に開示を求められる7分野19項目は以下のとおりです。

7分野 19項目
人材育成 リーダーシップ育成スキル、経験
エンゲージメント 従業員満足度
流動性 採用維持サクセッション(後継者育成)
ダイバーシティ ダイバーシティ非差別育休休業
健康・安全 精神的健康身体的健康安全
労働慣行 労働慣行児童労働、強制労働賃金の公正性福利厚生組合との関係
コンプライアンス・倫理 コンプライアンス

たとえば、人材育成の「スキル、経験」なら、スキル向上プログラムの実施状況などを記載します。健康・安全に関する分野の「身体的健康」には、労働災害の発生件数やインシデントの影響などを記載している企業もあります。それぞれの項目の状況がどうなっているか、具体的にどのような取り組みをしているのか、などを開示しましょう。 開示が義務化されている分野・項目について、詳しくは以下の記事で解説しています。

人的資本の情報開示が企業にもたらす影響6つ

人的資本の情報開示は、企業にとって多くのメリットがあります。一方でデメリットもあるので、良い面・良くない面の両方から、人的資本の開示がもたらす影響をお伝えします。

  • 従業員の能力を視覚化できる
  • チムの生産性が向上する
  • 人材採用をブラッシュアップできる
  • 投資家や株主と明瞭で論理的な対話ができる
  • 企業のブランド価値が向上する
  • 情報開示にコストと時間がかかる

1. 従業員の能力を視覚化できる

人的資本経営では、全員に対して統一するのでなく、個人の能力に合わせた教育をします。能力を知るためには「見える化」が必要であり、個人の能力を把握できれば、企業も適切な評価が可能です。

会社側が能力をしっかりと把握・管理することで、従業員からの不平不満が減り、結果的にエンゲージメント向上にもつながるのです。

2. チームの生産性が向上する

人的資本経営では、働き方や育成について見直し、従業員がパフォーマンスを発揮できるように環境を整備します。働きやすい環境を用意することで従業員満足度が高まり、生産性の向上にもつながるでしょう。個人としてはもちろん、チーム・組織としての生産性の向上が期待できます。

3.人材採用をブラッシュアップできる

人的資本の開示では、企業の人材育成の注力度、人材定着の割合など企業の実態を示します。就職希望者の視点で見ると、「人材に対する考え方」「内部で働く人の実態」がわかります。そのため、自社に合う企業が見つかりやすく、ミスマッチ防止にもつながります。

企業側も、自社が求める人材が集まりやすくなる、理念とマッチする人材を選びやすくなるなどのメリットを得られます。

4. 投資家や株主と明瞭で論理的な対話ができる

人的資本の情報開示では、人材にどの程度投資しているか可視化されます。それが、投資家や株主などステークホルダーとの会話の契機となるのです。ステークホルダーからの意見や評価を受け入れ、自社の経営に反映させれば、商品やサービス、企業のブランド向上につながります。

5.企業のブランド価値が向上する

人的資本経営は、端的にいえば「従業員を思いやる経営」です。従業員エンゲージメント向上のために、個人の能力に合わせて教育をしたり、働きやすい環境を整えたりします。

人材に投資している企業はステークホルダーからの評価が高まり、結果的に自社のブランディングにもつながるのです。自社のブランド価値が高まれば、顧客満足度にも良い影響を与えるでしょう。

6.情報開示にコストと時間がかかる

人的資本経営は、いわば「人材投資」なので、働きやすい環境を整備したり、人材を育成したりするのにコストがかかります。たしかにステークホルダーからの評価は得られますが、人的資本経営に過剰に投資すると、キャッシュフローが悪化する可能性もあるでしょう。

施策を行っても、すぐには効果は表れないでしょう。企業規模が大きくなれば従業員数も増え、それだけマネジメントも難しくなるので、中長期的な視点での取り組みが必要です。

人的資本開示でやるべき3つのこと

ここでは人的資本開示でやるべきことを3つ解説します。「人的資本可視化指針」では、人的資本開示の手順を次のように説明しています。

【引用元】人的資本可視化指針 - 内閣官房 非財務情報可視化研究会

効果的な人的資本の開示は、図のように6つのステップを踏むことが大切です。このとき、企業がやるべきことは大きく次の3つとなります。

1. データの計測環境を整備する

まず自社の人材資本、人材戦略の整理をおこないましょう。ここが人的資本経営を運用するための土台となるため、一番重要な部分です。現状の確認と今後のビジョンを明確にすることで、より効果的に企業価値向上を目指せます。

次に必要なデータを収集、管理するために、データの計測環境を整備しましょう。必要に応じて、人事情報システムの導入、従業員への情報開示の説明などを検討してもいいかもしれません。このように情報収集から開示までのプロセスを確立することが、第一段階です。

2.目標とKPIを設定する

そして、目標とKPIを設定しましょう。目標は情報開示の目的や期待する成果を得るためにも、非常に重要な要素です。従業員のスキル向上や労働環境の改善など、具体的な目標を設定しましょう。次は各目標に対するKPIを設定します。KPIは、目標の進捗や成果を定量的に測定するための指標です。目標とKPIを設定することで情報開示の目的や成果を明確にし、適切な指標で状況を評価できます。

3. 現状と理想のギャップを埋める

計測結果が出たら、ステークホルダーから開示へのフィードバックを受けます。理想とする目標との距離を確認し、人材戦略の見直しをおこないましょう。 現状の把握、分析を継続的におこない、理想の姿に近づけるようにします。戦略を見直しながら、少しずつギャップを埋めて人的資本経営が実現できるようにしましょう。

人的資本の情報を開示するときの注意点3つ

人的資本の情報開示は、なんの戦略もなくただ情報開示するだけでは効果的とはいえません。ここでは、注意点について3つお伝えします。

1. 開示情報をなるべく定量化する

開示情報のデータはなるべく定量化することです。情報を定量的な指標や数値データなどに変換し数値化することで、情報の分析や比較、評価がしやすくなります。

たとえば従業員の平均給与や教育レベルなどを数値化することで、組織の人的資本の状況を定量的に把握することが可能です。

このように開示情報のデータを定量化することで、収集したデータをより効果的に活用できます。客観性があるため、ステークホルダーに対する説得力も増します。

2. 施策の説得力が増すストーリー性を意識する

ストーリー性を意識することも重要です。人的資本経営を目指すうえで、人的資本の情報開示は、ただデータをまとめて開示するだけでは不十分といえます。企業を評価したり、施策をチェックするステークホルダーは、目標へ向けた戦略にストーリー性がないと、優位性がなく価値向上も見込めないと判断します。。逆にストーリーがあれば効果的な活用にもなります。

人材戦略に対する取り組みは、経営戦略とのつながりを意識し「取り組みに対する説得力があるストーリーになっているかどうか」を確認しましょう。

3. 独自性と比較可能性をバランスよく組み合わせる

自社独自の経営、人材戦略と比較可能性が重視される事項をバランスよく組み合わせましょう。比較可能性とは、投資家など外部のステークホルダーが他企業と比較できるデータのことをいいます。

自社ならではの特徴や取り組み、他と異なる点を強調することで独自性を出しつつ、同時に他社や業界の標準や水準との比較ができる形式で情報を提示します。

独自性と比較可能性をバランスよく組み合わせることで、情報開示がより効果的になり、説得力を持たせられるでしょう。

【ツール紹介】人的資本経営で必要な人材スキルの可視化ができる「PHONE APPLI PEOPLE」の特長や機能とは

PHONE APPLI PEOPLE

導入企業

PHONE APPLI PEOPLE

従業員のスキルを可視化するためには、これらの情報を一元管理するツールが必要です。PHONE APPLI PEOPLEは、皆さんが連絡を取るために普段使いする電話帳、社内イントラネットのような用途で使われるサービスです。社内のメンバー同士のつながりを高めるために個々のメンバーが持つスキルや経験、パーソナリティ情報などを自己開示しあい、相互理解を深め、心理的な距離を縮めて、活発な協働を促すことが可能です。
さらに詳しい方法についてこちらの資料でも解説しております。資料ダウンロードは無料なのでぜひ、こちらをご覧いただけますと幸いです。

【事例紹介】株式会社日立製作所|従業員の肯定的回答率が目標よりも2年前倒しで達成

【引用】株式会社日立製作所


株式会社日立製作所は、情報通信システムやマルチメディア、家電、デバイスなどを生産する総合電機メーカーです。同社では、サステナビリティ目標達成のために「人的資本の充実」を重要なテーマに掲げています。

同社では、マネジメントをメンバーシップ型から「ジョブ型(職務に適した人材をアサインする)」に方向転換。ジョブ型を実現するために、職務や人材の可視化を徹底し、人材配置や報酬制度の見直しも繰り返し行いました。

その結果、従業員エンゲージメントスコア(肯定的回答率)の68%という目標を、想定よりも2年前倒しで達成しました。2024年の目標も上方修正しています。

【まとめ】人的資本の情報開示義務化の内容について

本記事では、人的資本の情報開示の義務化について、以下のポイントを中心にお伝えしました。

  • 人的資本の情報開示は2023年3月より義務化された
  • 「有価証券報告書」を発行する大手企業の約4,000社が対象
  • 人材育成方針や社内環境整備方針、女性管理職比率などの項目が義務化の対象となった

リーマンショック以前は、現金や建物など「有形資産」が重要視されていましたが、今では従業員や労働環境など「無形資産」で企業を判断するようになっています。

ステークホルダーからの評価を得るためにも人的資本の情報開示は必要不可欠です。義務化の内容にしたがって、独自性や比較可能性のある情報を開示しましょう。 本記事の内容が、貴社の人的資本経営にお役立ちできることを願っています。

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