人的資源の定義は?人的資本との違い、人的資源の有効活用に必要なことを解説
- 人的資源と人的資本の意味について詳しく知りたい
- 人的資本が重要視されている理由を把握したい
- 人的資源を活用するためにやるべきことが知りたい
人的資源とは、組織における従業員を経営資源と見なす考え方です。従業員の能力やモチベーションが、組織の成功や競争力に直結するとみなします。一方、人的資本とは、従業員がもつスキルや知識、技術などを資産として捉える考え方です。
両者の違いを理解することで、組織は従業員のスキルを戦略的な資産として活用し、業績を最適化する方法を見出せるでしょう。
- 【この記事でわかること】
- 人的資源と人的資本の違いについて
- 人的資本が重要視される5つの理由について
- 人的資源を有効活用するためにやるべきこと
ぜひ本記事をご覧になって、組織の人的資本の向上にお役立てください。また人的資本について基本的なことを知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
人的資源とは?人的資本との違い
人的資源は人材そのものを経営資源として位置づける考え方。一方で人的資本は従業員のスキルや知識を資産として捉える考え方のことです。
具体的に2つにどのような違いがあるのか詳しく解説します。
人的資源と人的資本との違い
人的資源は、組織内に存在する資源の1つです。経営資源には「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つがあり、その中でもヒトは最も重要な資源とされています。なぜなら、人間が組織の目標や戦略を達成するために、他の資源を活用するからです。人的資源は、組織が使用することで消費され、減少するイメージです。人的資源は消費される時点の価値に焦点を当てており、将来の価値はあまり考慮されていません。
一方で人的資本は、将来的にも価値を生み出すために従業員を投資の対象として捉えています。たとえば、従業員の教育や研修に投資することで、将来的にはより高い生産性や創造性を生み出す効果を期待できます。
人的資源と人的資本の大きな違いは、「人的資源にかかる費用がコストと見なされるか、投資として捉えられるか」です。
以前は人材を単なる資源として見なすのが一般的でしたが、最近では人的資本として投資し、育てていく必要性が重要視されています
人的資本が重要視される5つの理由
従来、人材はただの資源と見なされ、効率的に使うことが重要視されてきました。しかし最近では、人が企業にとって利益や価値をもたらす重要な資本として考えられるようになりました。ここでは、人的資本が重要視される理由をお伝えします。
1. 人的資本開示の義務化
人的資本の情報開示とは、企業が従業員のスキルや能力、知識などを公表することです。世界的なESG投資※の広がりや米国の規制の強化により、情報開示の重要性が高まっています。日本でも、2023年3月期から上場企業は従業員の育成や環境整備の方針・目標を開示することが義務化されました。
また、女性活躍推進法や育児・介護休業法に基づく情報公開も義務化されています。人的資本の開示には次のメリットがあります。
- 1. 人材戦略や優位性が明確化される
- 2. 株主や投資家との対話のきっかけになる
- 3. ブランディングや採用活動によい影響を与える
人的資本の情報開示によって、企業の方針や目的が広く知られ、ブランドイメージや人材の採用によい影響があります。
※ESG投資......環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス=企業統治(Governance)の3つの要素を考慮した投資の手法。
2. 無形資産の価値向上
無形資産とは、形をもたない資産のこと。従業員のスキルや経験、ノウハウなどがその例です。アメリカの上場企業では、有形資産よりも無形資産が重要視される傾向があります。とくにリーマンショック後は、企業の価値を評価する際に財務諸表だけでは不十分だとされ、無形資産への注目が高まりました。
無形資産の価値向上は、組織のブランドやイメージの向上につながります。従業員が高いスキルや能力を発揮し、成果をあげることで、組織の信頼性が高まり、顧客や市場の支持を得られます。
3. ESG投資の重要性の高まり
ESG投資が注目される理由は、世界的に環境問題や社会問題への関心が高まっているからです。近年、気候変動による資源の減少などが進み、消費者の環境への意識も高まっています。企業が環境や社会に配慮しない場合、消費者から非難され、業績に悪影響を与える可能性があるのです。
同様に、労働者の権利や内部の不正も企業のイメージやリスクに影響を与えます。従業員や社会からの信頼を失うことで、企業の信用が低下し、業績や企業価値が損なわれる可能性があります。
これまでは財務諸表で企業の価値を評価していましたが、長期的な企業の価値を考える上で、ESGの観点は不可欠です。
4. ステークホルダーからのニーズ
ステークホルダーとは、企業や組織に影響を及ぼす関係者のことです。従業員、顧客、投資家、地域社会などが含まれます。最近では利益だけでなく、ステークホルダーのニーズにも注目が必要です。顧客の要求や支持を得ることでビジネスの持続性を確保し、従業員のモチベーションを高めることで組織の成果を最大化できます。
また、株主や投資家との信頼関係を築くことで、資金調達や投資のサポートを受けられます。企業はステークホルダーのニーズや関心ごとに真摯に応えることで、ステークホルダーとの信頼を築き上げ、市場での優位性を確保できるのです。
5. ISO30414の発表や海外の動向が顕著
ISO30414は、2018年12月にISO(国際標準化機構)が公表した、人的資本の情報開示に関するガイドラインです。2011年に設立されたISOの技術委員会TC260は、企業価値の中で人的資本の役割が拡大する中で、国際人事標準の検討をスタートしました。
そして2017年、米国の機関投資家がSEC(米国証券取引委員会)に対し、人的資本に関する情報開示を促すロビー活動を始め、これがISO30414の公表につながりました。
海外では、人的資本の価値がますます認識され、ISO30414に基づく管理や報告が進んでいます。とくに、先進国や多国籍企業では、これを通じて競争力の向上や成長が促進されています。
人的資本で情報開示する7分野・19項目
2023年3月以降の有価証券報告書から、企業は人的資本の情報開示が義務化されました。これにより、企業は人的資本の管理や活用に関する情報を公開する必要があります。情報開示に関する「7分野19項目」は、「人的資本可視化指針」に示されています。
7分野 | 19項目 |
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1. 人材育成に関する分野 | 1. リーダーシップ 2. 育成 3. スキル |
2. エンゲージメントに関する分野 | 4. 従業員満足度 |
3. 流動性に関する分野 | 5. 採用 6. 維持 7. サクセッション |
4. ダイバーシティに関する分野 | 8. ダイバーシティ 9. 非差別 10. 育児休業 |
5. 健康・安全に関する分野 | 11. 精神的健康 12. 身体的健康 13. 安全 |
6. 労働慣行に関する分野 | 14. 労働慣行 15. 児童労働、強制労働 16. 賃金の公正性 17. 福利厚生 18. 組合との関係 |
7. コンプライアンス・倫理に関する分野 | 19. コンプライアンス |
人的資本開示の手順
人的資本開示の手順は次の通りです。
【引用元】人的資本可視化指針 - 内閣官房 非財務情報可視化研究会
- Step1:まず、自社の人的資本と人材戦略を整理する
- Step2:制度開示に対応しながら、可能な範囲で人的資本と人材戦略を開示する
- Step3:開示に対するフィードバックを受けとる
- Step4:フィードバックを考慮し、人材戦略を再検討する
- Step5:見直された人材戦略を基に、人的資本への投資を実行する
- Step6:定量的な目標と指標を設定し、継続的に人的資本への投資とその結果を分析する
ここにおいて最も重要なのはStep1となります。自社の人的資本と人材戦略を整理することで、それに基づいた将来の目標を描くことができるからです。自社の方向性を明確にすることで、組織は適切な人材を採用し、育成し、活用するための戦略が立てられます。開示した後は、従業員やステークホルダーからのフィードバックをもとに施策を改善していきましょう。期待した成果が得られなかった場合も、原因を見つけ出し、何度も挑戦することが大切です。
【企業が取り組むべき主要な3つのステップ】- 1.データの計測環境を整備する
- 2. 目標とKPIを設定する
- 3. 現状と理想のギャップを埋める
1.データの計測環境を整備する
まず現在の状況を正確に把握するために、データの計測環境を整えましょう。正確な情報を収集するには、マネジメントシステムなど計測ツールがオススメです。結果を数値で把握するため、施策の効果を容易に確認できます。
2. 目標とKPIを設定する
次に、目標とKPIを設定します。従業員のスキル向上や労働環境の改善など、具体的な目標を設定しましょう。KPIは目標の進捗や成果を定量的に測定するための指標です。目標達成へのプロセスが可視化できるため、従業員のやるべきことがわかりやすくなるでしょう。
3. 現状と理想のギャップを埋める
最後は、現状と理想のギャップを埋めることです。もし目標に届かなかったのであれば、どのような問題や課題があるのかを特定し、そのギャップを埋めるための人材戦略を立てます。必要に応じて見直しをすることで、人的資本経営が実現できるようになるでしょう。
企業の課題は「従業員エンゲージメントの向上」
企業が直面している重要な課題の1つは、従業員エンゲージメントの向上です。従業員エンゲージメントの不足によって、生産性の低下や離職率の増加など、さまざまな問題が発生する可能性があります。従業員の仕事に対する満足度が高いほどモチベーションも上がりやすく、生産性の向上にもつながります。
また従業員が仕事に誇りを持ち、最高の成果を出そうとするため、提供される商品やサービスの品質も向上し、顧客満足度が上がります。
さらに、エンゲージメントの高い従業員は組織から離れることを考えることが少なく、離職率も低くなるのです。従業員のエンゲージメントの向上は人的資本経営において必要不可欠です。
人的資源を有効活用するためにやるべきこと5つ
人的資源を有効活用するために、組織は人を単なる資源としてではなく、戦略的な資本として捉える必要があります。そのためには、以下の5つの要素に注力することが重要です。
- 1. 人事評価制度を見直す
- 2. 人材育成制度を充実させる
- 3. 働きやすい環境を提供する
- 4. 福利厚生を充実させる
- 5. 多様性を受け入れる
人的資源を有効活用するためには、これらの要素を単独で考えるのではなく、統合的に考えることが大切です。たとえば、人事評価制度を見直すだけでなく、同時に人材育成制度を強化することで、組織全体のパフォーマンスが向上します。
福利厚生の充実も従業員の満足度を高め、離職率を低下させる効果があります。さらに、多様性を受け入れることは、異なるバックグラウンドや視点をもつ従業員が組織内で活躍しやすくするだけでなく、新しいアイデアや革新も生まれやすくなるのです。
人的資源を有効活用することで、組織は従業員の力を最大限に引き出し、結果的に人的資本を高めることにつながるのです。
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従業員のスキルを可視化するためには、これらの情報を一元管理するツールが必要です。PHONE APPLI PEOPLEは、皆さんが連絡を取るために普段使いする電話帳、社内イントラネットのような用途で使われるサービスです。社内のメンバー同士のつながりを高めるために個々のメンバーが持つスキルや経験、パーソナリティ情報などを自己開示しあい、相互理解を深め、心理的な距離を縮めて、活発な協働を促すことが可能です。
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【事例紹介】SB C&S株式会社|独自のキャリア開発支援や休暇制度を導入
【引用】SB C&S株式会社
SB C&S株式会社では、従業員のキャリア形成を支援するため、自己成長支援金や資格取得支援制度を導入しています。従業員は自らのスキルアップの機会を積極的に活用し、約500の資格取得支援制度を通じてさまざまな分野で資格を取得できます。
さらにダイバーシティ推進の一環として、女性活躍推進委員を設置し、アンコンシャスバイアス研修を実施しています。この研修では、参加者が無意識の偏見や先入観に気づき、それを克服する方法を学びます。
これにより、女性社員のキャリア形成が支援され、組織全体の多様性が促進し、企業の事業成長が加速しました
【まとめ】人的資源から人的資本に移行する目的について
本記事では、人的資源から人的資本に移行する目的について解説してきました。
- 従来の考え方は人材を単なる資源として見なすのが一般的だったが、最近では人的資本として投資し、育てていく必要性が重要視されている
- 従業員が仕事に熱心に取り組むと、モチベーションが高まり、仕事の成果も向上する。従業員のエンゲージメント向上は、人的資本経営にとって欠かせない要素
- 人的資源を有効活用することで、組織は従業員の力を最大限に引き出し、結果的に人的資本を高めることにつながる
人的資源から人的資本への移行は、従業員を単なるコストではなく、戦略的な価値源として捉えることです。この移行により、組織は従業員のスキルや経験を最大限に活かし、イノベーションや生産性の向上を促進します。本記事の内容が、人的資本経営にお役立ちできることを願っています。